2019年1月22日(火)放送の日本テレビ『ザ!世界仰天ニュース』(21:00-21:45)にて、過敏性腸症候群(IBS)が取り上げられていました。
この日の番組のテーマは「恐怖症」。
失笑恐怖症、会食恐怖症などとともに、
おならが止まらない女性の苦しみ
として女性のエピソードが紹介されていました。
ちなみにエピソードの概要は下記番組HPより閲覧できます。
URL:http://www.ntv.co.jp/gyoten/backnumber/article/20190122_03.html
番組の内容紹介
簡単に放送の内容を要約します。
Yさん・27歳の女性にはある悩みがあった。
その悩みとはおならが止まらないこと。
臭いの原因が自分だと気づかれるのではないか?と他者の視線が気になり人付き合いやエレベーターのような閉鎖空間を避けるなど日常生活に支障をきたすようになった。
症状は止まらないおならに加えて、それらを我慢すれば激しい腹痛が起こる。
激しい下痢・腹痛でトイレにこもりっきりになることも。
長年悩んいたが、付き合った彼氏の勧めで病院へ。
診断名は「過敏性腸症候群(IBS)」
検査では異常がないにも関わらず、下痢・便秘・腹痛・腹部膨満感などが長期間持続する疾患。
軽度の人まで含めると日本人の1割が患っているとも言われる。
症状はいくつかのタイプに分類でき、Yさんのタイプは『下痢型』
さらに、空気を大量に飲み込んでしまう『呑気症』も併発していたため、おならが多かった。
呑気症とは、無意識に大量の空気を呑み込 むことによって、胃や食道、腸に空気がたま り、その結果、ゲップやお腹の張り、おなら が頻繁にでる症状。
空気嚥下症ともいう。
医師の説明によれば、下記のような要因がIBSの原因として挙げられる。
- 腸粘膜にはセロトニンというホルモンがあり、量が多いと下痢、少ないと便秘になる。
- ストレスによる不安や緊張が中枢神経から迷走神経を伝わって腸の動きを活発にする。
- 睡眠不足なども影響。
現在はセロトニンの量をコントロールする薬が開発され、症状を抑えられるようになった。
またYさんは診断後、食事内容を見直し、下痢や腹痛になりやすい食べ物・飲み物を控えることで症状は徐々に収まった。
しかし生活環境の変化で、再び症状が再発し、引きこもりがちに。
そんなときSNSで同じIBSで悩む人たちの交流会の存在を知り参加を決めた。
交流会で前向きな人たちと触れ合うことで救われ、現在は自分と同じような環境の人のために交流会を開催しているという。
〈番組要約おわり〉
本題です。
僕自身、潰瘍性大腸炎を発症する前から、診断こそついていませんが今思えばIBSの症状がありました。
当時は学生時代だったので、通学や授業中の急な腹痛に悩まされました。
ということで、今日は炎症性腸疾患(IBD)と同じく腸の病気である「過敏性腸症候群(IBS)」の分類・タイプについてまとめます。
過敏性腸症候群(IBS)の4つのタイプ
日本消化器病学会のガイドラインによると過敏性腸症候群(IBS)は下記の4つのタイプに分類されます。
- 「便秘型」
- 「下痢型」
- 「混合型」
- 「分類不能型」
この分類は便の性状が元になっています。
「◯◯型」という名前だけでなんとなく概要は分かりますが、各型について詳しく見てみましょう。
Bristol(ブリストル)便形状尺度
その前に、分類の元になっている便の性状を分類する基準となっている尺度(スケール)を紹介します。
「ブリストルスケール」というものです。
IBDの方は問診等でも見たことがあると思います。
便の性状が7つのタイプに分類されています。
タイプ4(普通便)が健常な便で、数字が小さくなると便に含まれる水分量が少なく、逆に数字が大きくなると水分量が多くなります。
大別すると
- タイプ1・2:便秘
- タイプ3~5:健常な範囲
- タイプ6・7:下痢
となります。
では、4つの型をそれぞれ見てみましょう。
1. 便秘型IBS(IBS-C)
Constipation(便秘)の頭文字より、「IBS-C」と表記されたりまります。
便秘で、ブリストルスケールのタイプ1・2の便が多い場合が該当します。
厳密には、
ブリストルスケールのタイプ1・2が便形状の25%以上、かつ
ブリストルスケールのタイプ6・7が便形状の25%未満
とされています。
便秘型の患者さんはストレスを感じると便秘がひどくなります。
2. 下痢型IBS(IBS-D)
Diarrhea(下痢)の頭文字より、IBS-Dと表記されたりまります。
下痢で、ブリストルスケールのタイプ6・7の便が多い場合が該当します。
厳密には、
ブリストルスケールのタイプ6・7が便形状の25%以上、かつ
ブリストルスケールのタイプ1・2が便形状の25%未満
とされています。
下痢型の患者さんは緊張するとお腹が痛くなったり、下痢が生じます。
3. 混合型IBS(IBS-M)
Mixed(混合)から、IBS-Mと表記されたりします。
便秘、下痢両方のタイプの便が同じような頻度で起こる場合です。
厳密には、
ブリストルスケールのタイプ1・2が便形状の25%以上、かつ
ブリストルスケールのタイプ6・7が便形状の25%以上
とされています。
混合型の患者さんは下痢をしたり便秘をしたり、便通が変動するのが特徴です。
4. 分類不能型IBS(IBS-U)
Unsubtyped(分類されていない)ことより、IBS-Uと表記されたりします。
分類不能型ではブリストルスケールのタイプ3~5の便が主体となります。
厳密には、
便形状の異常が不十分であって、IBS-C、IBS-D、IBS-Mのいずれでもない
とされています。
IBS タイプ別の治療
第1段階の治療
【共通】
まず、どのタイプも生活習慣の改善を行います。
3食を規則的にとり、暴飲暴食、夜間の大食を避け、食事バランスに注意したうえで、ストレスを溜めず、睡眠、休養を十分にとるように心がけ、刺激物、高脂肪の食べもの、アルコールは控えます。
生活習慣を改善しても症状がよくならない場合は、投薬治療を行います。
薬物療法で最初に用いる薬としては、
◎消化管機能調節薬:腸の運動を整える薬
◎プロバイオティクス:ビフィズス菌や乳酸菌など生体にとって有用な菌の製剤
◎高分子重合体:水分を吸収し便の水分バランスを調整する薬
があげられます。
これらの薬は下痢症状が中心の方、便秘症状が中心の方のどちらにも用いられます。
お腹の痛みには
◎抗コリン薬
が使用されます。(※補助的、頓服的)
これらに加えて各タイプ別に、下記の薬が用いられます。
【下痢型】
◎セロトニン3受容体拮抗薬(5-HT3拮抗薬):腸の運動異常を改善させる
◎止痢薬(※補助的、頓服的に使用)
【便秘型】
◎粘膜上皮機能変容薬:便を柔らかくする
◎下剤(※補助的、頓服的に使用)
第2段階の治療
第1段階の治療が効かない(無効)な場合には下記の治療が行われます。
【便秘型】
◎セロトニン4受容体刺激薬:腸の動きを活発にする薬
【下痢型】
◎ロペラミド塩酸塩:止痢薬
★漢方薬
漢方薬は古くから使われている生薬を組み合わせたもので、経験的に有効であることがわかっています。
腹痛の改善には桂枝加芍薬湯、便秘型に対し大建中湯が広く用いられています。
★アレルギー除去食、抗アレルギー薬
さらにIBSの原因の一つとして食物アレルギーがあげられており、アレルギー除去食や抗アレルギー薬も有効です。
★抗うつ薬
うつ症状が強い場合、腹痛を和らげる作用がある抗うつ薬を用いますが、通常よりも少ない量で効果がみられることが多いようです。
三環系抗うつ薬と選択的セロトニン再取り込み阻害薬が有効です。
不安が強い場合はベンゾジアゼピン系抗不安薬を用いることもあります。
ただし、抗不安薬は依存性の問題もあり長期間の使用は慎重に行います。
簡易精神療法は患者さんのストレスを和らげ有効です。
上に述べたそれぞれの場合の治療薬を第1段階の治療薬と併用することも一つの方法です。
これらの薬物療法を4~8週間続け、改善すれば治療継続または終了とします。
IBS分類に係るQ&A
Q. それぞれのタイプの割合は?
日本では混合型が約半数
- 米国:便秘型、下痢型、混合型がほぼ同数 (Manning基準)
- 欧州:便秘型と混合型が最多 (Rome I基準、Rome II基準、自己申告)
- 日本:便秘型24%、下痢型29%、混合型47% (Roma III基準)
Q. 男女別、年齢別の傾向は?
《男性》
- 30代以上の男性は、半数以上が下痢型。
- 15〜29歳の若い男性の便秘型が20.7%と、非常に多くなっている。
《女性》
- 女性は男性に比べ、下痢と便秘を繰り返す混合型が多い。
- 女性は、ホルモンや筋力の弱さ、ダイエット等の食生活などの様々な要因から、男性より便秘になりやすいといわれている。
この調査では“便秘の症状のみ”の人は少ない結果だが、「女性に便秘はありがち」と考え、IBSだと気づかず、市販の便秘薬を飲んで対処する人が多い可能性がある。 - 若い女性は、お腹のハリやガス溜まりの症状を訴えている人が多い傾向。
調査方法:
15歳以上の男女 IBS診断経験者1252人対象 インターネット調査
2013年5月 田辺三菱製薬調べ
出典:数字でなっとく!過敏性腸症候群(IBS)|セレキノンS|田辺三菱製薬
Q. IBSの分類(C、D、M、U)は移行するか?
結論としては、IBSの分類(C、D、M、U)は移行します。
◎調査A
米ミネソタ州において、地域住民の症状を12年にわたり経過観察した報告があり、このなかでIBS症状を有する158人が検討されている。
各タイプともに10~30%はそのままの症状が持続しているが、約30%は症状が消失、残りが他のタイプに移行している。
移行した例は、
- IBS-C(便秘型)→IBS-M(混合型)、腹痛のみ
- IBS-D(下痢型)→IBS-M(混合型)
- IBS-M(混合型)→IBS-D(下痢型)
- IBS-U(混合型)→IBS-C(便秘型)、IBS-D(下痢型)
などがあったが、
- IBS-C(便秘型)→IBS-D(下痢型)
- IBS-D(下痢型)→IBS-C(便秘型)
となる例はなかった。
Halder SL, Locke GR 3rd, Schleck CD, Zinsmeister AR, Melton LJ 3rd, Talley NJ.
Natural history of functional gastrointestinal disorders: a 12-year longitudinal population-based study.
Gastroenterology. 2007 Sep;133(3):799-807. Epub 2007 Jun 20.
◎調査B
Rome II基準によるIBS女性317人を15ヵ月追跡した研究が米国で行われている。
便秘型34%、下痢型36%、混合型31%であったものが、各々のなかの25%が12ヵ月以上同型にとどまり、残る75%は他の2型のいずれかに少なくとも1回は移行した。
Drossman DA, Morris CB, Hu Y, Toner BB, Diamant N, Leserman J, Shetzline M, Dalton C, Bangdiwala SI.
A prospective assessment of bowel habit in irritable bowel syndrome in women: defining an alternator.
Gastroenterology. 2005 Mar;128(3):580-9.
出典表記なき数値は全て、
日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2014-過敏性腸症候群(IBS)」
URL: https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/IBSGL2_re.pdf
より
〈おわり〉